貴女が髪を濡らす理由(わけ)
「聞かないで」
 と電話の向こうからの返事に僕は、気の利いた言葉が思いつかず、そのあと言葉が続かなかった。

 長い髪が濡れてもお構いなしに、海辺で何かを忘れようと藻掻いていたあの時も。 

雨の日に一人出掛け、紫陽花を握り締めたまま、ずぶ濡れになって帰ってきた君にも。

 一歩踏み込む勇気があれば、冷えた体を包み込み 温めてあげることができたかもしれないけど。
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